新古今の景色(41)院政期(16)歌林苑(6)俊恵(6)弟・祐盛(1)

先回の「千載集の源俊頼一家」から、俊恵を核にして六条源家三代の男子の進路・位階を以下のように整理してみた。

 

祖父:源経信 正二位大納言

父:源俊頼朝臣 従四位上木工頭

正室男子:源俊重 従五位上伊勢守

継室(後妻)男子:俊恵法師、東大寺の僧

生母不明男子:祐盛(ゆうせい、ゆうじょう)法師、叡山阿闍梨

生母不明男子:俊盛(しゅんしょう)法師、興福寺の僧

 

ここから読み取れるのは①六条源家は世代が下るに従って官位も下がっていること、②嫡子以外の男子は出家をしていること、です。

 

②については、俊恵は東大寺の僧、祐盛は比叡山延暦寺の僧、俊盛は興福寺の僧として

それぞれに法師と称していますが、中でも俊恵の5歳下の祐盛は阿闍梨(※)という僧

としては高い位階に上り詰めています。

 

さらに、歌人としては、嫡男の俊重と興福寺の俊盛法師は『千載和歌集』にそれぞれ1

首採用されているだけですが、祐盛法師は先回挙げた1首の他に次の2首が採られて

います。

 

     巻第十一 恋歌一   

688 色見えぬ心のほどを知らするは 袂(たもと)を染むる涙なりけり

【外に表れない恋心の程をあの方に知らせるものは、袂を染めた紅の涙で

 あることよ】

 

          巻第十五 恋歌五      恋の歌とてよめる    

931 つらしとて恨むるかたぞなかりける 憂きをいとふは君ひとりかは

    【あなたが薄情だからといってあなたを恨むのではないよ、わが身の憂きを

     いとうのはあなた一人ではないのだから。私自身もわが身をもてあましてい

                  るのです】

 

因みに 巻第十五 恋歌五 には俊恵の次の歌も収められています。

             

927 君やあらぬ我身(わがみ)やあらぬおぼつかな 頼(たの)めし事のみ

    変(かは)りぬる

    【あなたはもとの同じあなたではないのか、わが身は同じわが身では

     ないのか、何とも心もとないことだ、頼みに思っていたことは

     みな変わってしまったよ】

 

(※)阿闍梨あじゃり):(仏)(アザリとも。軌範師・教授・正行とも訳す)。

   ①師範たるべき高徳の僧の称 ②密教で修行が一定の階梯に達し、伝法潅頂に

    より秘法を伝授された僧。

 

参考文献:『新日本古典文学大系10 千載和歌』                                                           

           片野達郎・松野陽一 校注 岩波書店刊行