新古今の景色(26)院政期(1)源頼政(1)勅撰和歌集の常連

鴨長明が『無名抄』(55.俊成入道の物語、56.頼政歌道に好けること)で述べているように、当時最高の歌人であった藤原俊成と俊恵から歌人として大いなる賛辞を受けた源頼政の歌は従三位(じゅうさんみ)頼政の名前で『新古今和歌集』に次の3首が採られている。

 

【巻 第三 夏 歌 267 夏ノ月をよめる】

庭の面(おも)は まだかわかぬに 夕立の 空さりげなく 澄める 月かな

(現代語訳:庭の面はまだ乾いていないのに 夕立を降らせたことはうそのような空に、さりげない様子で澄んだ月がでているよ)

 

【巻 第四 秋歌上 329 題しらず】

狩衣(かりごろも) われとは摺(す)らじ 露しげき 野原の萩の 花にまかせて

(現代語訳:自分では狩衣に模様を摺りつけまい。露の滋く置いている野原の萩の花がおのずと摺り模様となるのに任せて)

 

【巻 第四 秋歌上 387】  

こよひたれ すず吹く風を 身にしめて 吉野の嶽(たけ)の 月を見るらむ

(現代語訳:今宵いったいどのような人がすず竹を吹く風を身にしみじみと感じながら 吉野の高嶺に照る月を見ているのであろうか)

 

また、源頼政が卓越した歌人であったことは、崇徳院の宣旨により藤原顕輔が撰集した『詞花集』に始まり、『千載』『新古今』『新勅撰』『続後撰』『続古今』『続拾遺』『新後撰』『玉葉』『続千載』『続後拾遺』『風雅』『新千載』『新拾遺』『新後拾遺』を経て後花園天皇の命により飛鳥井雅世が撰集した『新続古今』に至る16の勅撰集に58首が採用されていることからも明らかで、この事は武人でありながら第一級の歌人としても名を馳せた稀有な存在と云える。

 

参考文献:『人物叢書 源頼政』 多賀宗隼 日本歴史学会編集 吉川弘文館

     『新潮日本古典集成 新古今和歌集』久保田淳 校注 新潮社