新古今の景色(10)女房文学(3)後宮文学のパトロン藤原道長

女房たちは毎日目前に天皇中宮と高級貴族に接し交わってゆくうちに宮廷文化を身につけ、歴史や社会について学びながら人間観察の目を磨いてゆく。

 

特に中宮を中心とする後宮文学の隆盛は、複数の后が並び立ち、それぞれの后の後援者(父・兄弟)達が、天皇の后である娘あるいは姉妹の後宮に才能のある女房を集めて華やかな文化サロンを彩り、天皇の関心を惹きつけて娘の皇子出産を願うための政策であった。そこから後宮文学が生まれ、女房作家や女房歌人を輩出した。

 

ここで忘れてはならないことは、そこに権力者の後援・庇護があったことであり、一条天皇を中心とした摂関期の後宮女房の文学を支えたパトロン藤原道長であった。

 

11歳で元服した一条天皇は母・詮子の兄・藤原道隆の娘で4歳年上の定子を中宮に迎えて寵愛した。当時の二人の仲睦しく幸せだった宮廷生活は清少納言の「枕草子」に描写されているが、定子の父・中関白道隆の急死によりこの幸せは中断された。

 

そして道長にとっては次兄の道兼が関白を継ぐも在任7日で急死し、道長に目をかけていた姉で一条天皇の母・詮子の肝いりで、5男の道長が摂政に就き12歳の娘彰子を一条天皇に入内させて権力を一手に把握した。 

さらに、彰子入内の翌年に中宮定子が皇女出産の折りに25歳で亡くなると、道長は自分の娘たちを次々に天皇家に入内させ、その娘たちが出産しただ皇子を天皇に即位させて安定した摂関期の時代を築いた。

 

そして、戦乱のない平和で安定した摂関期時代が長く続いたことで、世界にも希な後宮女房の文學が開花したのであった。

 

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参考文献:『異端の皇女と女房歌人』 田渕句美子著 角川選書